医療法人の出資は、非上場株式と同様の方法で評価するのが原則です。医療法人は収益性が高く、その出資は評価額が高くなることが多いといえます。出資者全員が持分を放棄し、「持分の定めのない社団医療法人」へ移行することにより、医療法人の出資は相続税の対象とならなくなります。それゆえ、スムーズな事業承継のためには、「持分の定めのない社団医療法人」へ移行することも考えてみる必要があります。
1.医療法人の類型と財産権
平成19年の医療法改正で、平成19年4月1日以後に設立が認められる医療法人は「社会医療法人」、「財産医療法人」、「持分の定めのない社団医療法人」に限定されました。これらの医療法人には出資という概念がなく、相続等の場合の財産評価は必要ありません。
従来の「持分の定めのある社団医療法人」については、新設はできませんが、「経過措置型医療法人」として当分の間、その存続が認められています。「持分の定めのある医療法人」は、相続等の場合にその「出資」を評価することが必要です。
2.医療法人の出資の特徴
(1)評価方法
原則として、医療法人の出資は財産評価基本通達に基づき、非上場株式と同様の方法で評価を行います。ただし、医療法人には配当が認められていないことから、類似業種比準方式を採用するに当たっては、「利益」と「純資産」の2要素を基に計算をし、配当は考慮しません。
なお、配当還元方式の適用はありません。
(2)相続に伴う金庫株の特例の適用なし
非上場株式をその発行会社へ譲渡 (金庫株)すると、譲渡した人には「みなし配当」としての課税がなされますが、相続後の一定の譲渡についてはみなし配当課税がなされない特例があります。
自己の出資を買取るという考え方が医療法人には存在しませんが、出資者は一定の場合に出資の払い戻しを受けることができます。しかし、医療法人には上記の金庫株の特例は適用されません。したがって、払い戻しを受ける人にはみなし配当課税がなされ、所得税等の負担が重くなることがあります。
(3)物納不可
非上場株式は、一定の要件を満たすと物納することが可能ですが、医療法人の出資は物納対象財産となっておらず、物納することができません。
(4)事業承継税制対象外
医療法人の出資は、事業承継税制の対象となっていないことから、相続税や贈与税の納税猶予を受けることができません。
3.「持分の定めのない社団医療法人」への移行
「持分の定めのある社団医療法人」から「持分の定めのない社団医療法人」へ移行するためには、
医療法人の定款を変更しなければなりません。具体的には、持分に関する規定を定款から削除し、解
散時の残余財産が国等へ帰属するように変更を行います。
「持分の定めのない社団医療法人」へ移行すれば、その出資は相続税の対象にならなくなります。ただし、「持分の定めのない社団医療法人」へ一旦移行したにもかかわらず、再度「持分の定めのある社団医療法人」へ戻るということはできませんから、移行に当たっては慎重に判断することが重要です。