自社株贈与で多いのは、オーナーである父が子供に会社を引き継ぐために生前に自社株を与する
ケースです。次のことが、このような事業承継を踏まえた自社株贈与のポイントです。後継者が決定
している場合には、スムーズな事業承継を目指し、早期に自社株の贈与を行うといいと思われます。
1.自社株は分散させない
相続税対策として現金贈与を行うに当たっては、より複数の子供や孫に現金を与えて、できるだけ
贈与税の負担が軽減されるようにします。不動産贈与に当たっては、共有はできるだけ避けるべきで
すが、基本的に目的は同じといえます。
しかし、自社株は、現金や不動産とは大きく異なる性質を有しています。すなわち、自社株の贈与
は会社の事業承継の位置付けがあり、贈与を受けた子供は、後継者として会社を継続・発展させるこ
とが重要です。いずれの子供もかわいいものですが、他の兄弟に分散させてしまった場合には、その
兄弟の相続により甥や姪等に自社株が分散してしまい、将来、後継者の子供が買い集めるのに苦労し
なければならないかもしれません。自社株贈与は、相続税の観点と議決権を後継者に集中するという
観点の両方で、対策を取るべきです。
2.贈与するタイミングを誤らない
親子間で贈与を行う際には、なるべく低い贈与税で子供に贈与したいと思うのが当然でしょう。し
かし、自社株の場合、一つ間違えたらその贈与税が高くなってしまうことがありますので、留意する
べきです。
自社株には上場株式と違って市場価格がありません。したがって、評価をする必要があり、その評
価は、会社の業績によって大きく違ってきます。具体的には、株価は贈与日の直前の決算業績を基に算出され、その業績がいい場合に株価が高くなり、悪い場合に株価が低くなる傾向が見られます。したがって、贈与税を低く抑えるには、会社の業績が悪い時期、又は退職金の支給や含み損を抱える不動産の売却等の理由で利益が低くなった時期に、自社株を贈与するといいでしょう。
さらに、相続時精算課税制度を選択することにより、株価が低い時期に贈与すれば、相続時に株価が上昇していたとしても贈与時の低い価額で相続財産に取り込めます。ゆえに、相続時精算課税制度も併せて活用してみてはいかがでしょうか?
3.贈与の証拠をしっかり残す
現金であれば振り込んだことが通帳に記録され、不動産であれば登記により記録が残りますから、贈与日を客観的に証明することは可能です。自社株については、贈与日を客観的に証明できるでしょうか?
非上場会社の自社株には譲渡制限が付されている場合がほとんどで、取締役会等の一定の手続きを経ず勝手に自社株を贈与することは不可能ですし、それらの書類は会社として作成することが必要です。そして、株主名簿も変更するでしょう。そうした意味では一見十分に客観的な記録を残しているといえます。しかしながら、それだけでなく、さらにもう一工夫あるといいと思われます。つまり、贈与契約書の作成と共に、そこに確定日付を取るといいでしょう。家族で経営している会社では、これらの書類は主観的に作成できてしまう、すなわち、書類上の日付はバックデートでも作成できてしまうからです。そうでない場合でも疑われてしまう恐れもありますので、客観的な証拠の確定日付を取っておくことをお勧めします。
4.納税資金が必要
贈与税の納税資金をどのように確保するのかの検討が必要です。なぜなら、不動産贈与と同じく、自社株には一般的に換金性がないからです。